かつて日本には穢多・非人などと呼ばれる賤民が存在した。1871年(明治4年)の「解放令」によって賤民身分が廃止されて以降、かれらが集団的に住んでいた地域は「部落」と呼ばれるようになり、差別構造は残存した。現在、法律や制度のうえで「部落」や「部落民」というものは存在しない。しかし、いまなお少なからぬ日本人が根強い差別意識を抱えている。なぜ、ありえないはずのものが、ありつづけるのか? この差別は、いかにしてはじまったのか? 本作は、その起源と変遷から近年の「鳥取ループ裁判」まで、堆積した差別の歴史と複雑に絡み合ったコンテクストを多彩なアプローチでときほぐし、見えづらい差別の構造を鮮やかに描きだす。
監督は、
ここ数年、私のもとに多くのドキュメンタリー映画の企画が持ち込まれ、「プロデューサーとして参加してほしい」という依頼があったが、「乗った」のは満若勇咲監督の『私のはなし 部落のはなし』のみである。勘が働いた、というしかない。この若者に、賭けてみたい。 出資を決め、企画が動き出してからおよそ2年後、3時間におよぶ編集の第1稿を観た時の驚きは忘れられない。やろうとしていることのスケールの大きさに圧倒された。期待を遥かに上回る意欲作が誕生しつつあるという予感に、「おれの勘は正しかった!」と叫びたくなった。 この映画は、まことに饒舌である。そしてその饒舌さゆえに、単純な要約を許さない。だから観た人は、 それぞれに受け止め、自らの思いを持ち帰って解釈をするしかない。私はプロデューサーとして、このとんでもない作品をきちんと世に届けなければと、身の引き締まる思いでいる。
現在の部落差別は、その根深さとは裏腹にとても見えにくく分かりづらい。多くの人にとって部落問題は 身近な社会問題ではない、というのが正直なところだろう。ぼくも映画制作という機会がなれば意識することはなかったように思う。 「部落問題」を題材にした映画作りは難航した。カメラには映らない。けれど確かにそこにあるものを、 どのように映像で表現すればよいのだろうか? 悩んだ末に、ぼくは人々の「はなし」を紡ぐことで、意識の奥底にある「部落問題」の存在を感じさせることが出来るのではないかと考えた。そのために3時間25分という長さが必要だった。 部落問題を解決する道はまだ見つかっていない。撮影することは当事者の方々が差別を受けるリスクを伴う。そのような現実のなか、覚悟を持って今回の撮影に応じてくださった皆さんに心から感謝します。
1986年京都府生まれ。05年大阪芸術大学入学。映画監督の原一男が指導する記録映像コースでドキュメンタリー制作を学ぶ。在学中にドキュメンタリー映画『にくのひと』、『父、好美の人生』(監督・撮影)を制作。『にくのひと』の劇場公開が決まるも、その後封印。映像制作・技術会社ハイクロスシネマトグラフィに参加後、TVドキュメンタリーの撮影を担当する。19年からフリーランスとして活動。主な撮影番組に「ジェイクとシャリース~僕は歌姫だった~」(20/アメリカ国際フィルム・ビデオ祭 ゴールド・カメラ賞)、「ETV特集 僕らが自分らしくいられる理由〜54色のいろ鉛筆〜」(21)など。ドキュメンタリー批評雑誌「f/22」の編集長を務めている。
1969年神奈川県生まれ。ドキュメンタリー監督、プロデューサー、95年早稲田大学第一文学部卒業後、フジテレビに入社。「NONFIX」「ザ・ノンフィクション」などドキュメンタリー番組のディレクターを務める。99年にフジテレビを退社し、フリーランスとして活動。「情熱大陸」、「課外授業 ようこそ先輩」などを演出。09年に映像製作会社ネツゲンを設立。監督作品に『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』(07/第17回日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞受賞)、『園子温という生きもの』(16)。衆議院議員・小川淳也の17年を追った監督3作目の『なぜ君は総理大臣になれないのか』(20)で第94回キネマ旬報文化映画ベスト・テン第1位などを受賞。21年、小川や自民党・平井卓也らが出馬した第49回衆議院選を与野党両陣営の視点から描いた『香川1区』を同年12月に発表。主なプロデュース作品に『カレーライスを一から作る』(16/前田亜紀監督)、『ぼけますから、よろしくお願いします。』(18/信友直子監督)、『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』(20/田部井一真監督)など。
1970年和歌山県生まれ。株式会社ハイクロスシネマトグラフィ代表。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業後、テレビ制作会社と契約。1998年フリーランスキャメラマンとして独立し、「ザ・ノンフィクション」「世界の車窓から」「ETV特集」等、多くのテレビドキュメンタリーを撮影。2004年の『17歳の風景 少年は何を見たのか』を皮切りに、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(07)、『キャタピラー』(10)、『千年の愉楽』(12)など多くの若松孝二監督作品の撮影を担当。ほか映画作品に『止められるか、俺たちを』(18/白石和彌監督)、『MOTHER マザー』(20/大森立嗣)など。2021年に映画監督や俳優たちとの対話を記録した著書「ドキュメンタリー撮影問答 対話から見えてくる映像制作の深層」(玄光社)を上梓。
東京都生まれ。株式会社ギトリ代表。ドキュメンタリーやドラマ、バラエティまで様々なジャンルを編集。主なテレビ作品に、「撮影監督ハリー三村のヒロシマ~カラーフィルムに残された復興への祈り~」(15/第44回国際エミー賞・芸術番組部門受賞)、「ユーリー・ノルシュテインの、話の話。~アニメーションの神様 終わらない挑戦~」(17/第34回ATP賞テレビグランプリ・ドキュメンタリー部門優秀賞)、「爆走風塵〜中国・激変するトラック業界〜」(17/第7回衛星放送協会オリジナル番組アワード・ドキュメンタリー番組部門最優秀賞)、「ラップと知事選 沖縄 若者たちの声」(18/第35回ATP賞テレビグランプリ・ドキュメンタリー部門奨励賞)、「バレエの王子になる!〜“世界最高峰”ロシア・バレエ学校の青春〜」(19/第57回ギャラクシー賞選奨、ニューヨーク・フェスティバル銅賞受賞)、「ザ・ノンフィクション 花子と先生の18年~人生を変えた犬~」(20/ニューヨーク・フェスティバル銅賞受賞)。映画作品に、『氷の花火 山口小夜子』(15/松本貴子監督、平成28年度文化庁映画賞・文化記録映画大賞)、『ダンシングホームレス』(20/三浦渉監督、第12回座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル大賞)、『ちょっと北朝鮮までいってくるけん。』(21/島田陽磨監督)など。
1999年に東京で結成された4人組インストゥルメンタルロックバンド。オーケストラとシューゲーズギターノイズを合わせたオリジナルな楽曲スタイルは世界中で非常に高い評価を受けている。イギリスの音楽誌「NME」では「神の音楽」と賞賛された。18年6月、The Cureのロバート・スミスのキュレーションでロンドンで開催された<Meltdown Festival>にMy Bloody Valentine, Nine Inch Nails等と共にヘッドライナーとして出演。映画音楽としては、短編映画『Where We Begin』(15/HIKARI監督)がIdyllwild International Festival of Cinemaにてベストミュージカルスコア賞を受賞。長編映画『The 4th Company』(16)がメキシコ・アカデミー賞の音楽賞でノミネートされた。2021年9月、11枚目となるアルバム「Pilgrimage of the Soul」をリリース。米ビルボード、メインチャートにて初登場85位、オルタナティブ・ニューアーティストアルバムで2位を獲得。
1996年大阪府生まれ。2020年、京都市立芸術大学美術学部美術科卒業。2022年、同大学院美術研究科彫刻専攻修了。
(オンライン座席予約には使用できません)
東風オンラインショップで購入地域 | 劇場名 | 電話番号 | 公開日 |
青森県 | フォーラム八戸 | 0178-38-0035 | 6月10日(金)〜6月16日(木) |
備考: | |||
宮城県 | フォーラム仙台 | 022-728-7866 | 6月3日(金)〜6月16日(木) |
備考: | |||
山形県 | フォーラム山形 | 023-632-3220 | 7月15日(金)〜7月21日(木) |
備考: | |||
福島県 | フォーラム福島 | 024-533-1717 | 7月1日(金)〜7月7日(木) |
備考: |
地域 | 劇場名 | 電話番号 | 公開日 |
東京都 | ユーロスペース | 03-3461-0211 | 5月21日(土)〜 |
★劇場イベント★ ・5/21(土) 10:00の回/14:10の回上映後 満若勇咲監督・大島新プロデューサーによる舞台挨拶 ・5/25(水) 18:00の回上映後 満若勇咲監督・大島新プロデューサーによる観客との質疑応答 |
|||
神奈川県 | 横浜シネマ・ジャック&ベティ | 045-243-9800 | 6月11日(土)〜 |
備考: | |||
群馬県 | シネマテークたかさき | 027-325-1744 | 近日公開 |
備考: |
地域 | 劇場名 | 電話番号 | 公開日 |
愛知県 | 名古屋シネマテーク | 052-733-3959 | 6月11日(土)〜 |
★劇場イベント★ ・6/18(土) 10:00の回上映後、満若勇咲監督による舞台挨拶 |
|||
静岡県 | 静岡シネ・ギャラリー | 054-250-0283 | 6月11日(土)〜 |
★劇場イベント★ ・6/19(日) 時間調整中 山本崇記さん(静岡大学人文社会学部)・満若勇咲監督によるトーク |
|||
静岡県 | シネマイーラ | 053-489-5539 | 近日公開 |
備考: | |||
長野県 | 長野相生座ロキシー | 026-232-3016 | 近日公開 |
備考: | |||
長野県 | 松本CINEMAセレクト | 0263-98-4928 | 近日公開 |
備考: | |||
新潟県 | シネ・ウインド | 025-243-5530 | 近日公開 |
備考:*火曜休館 | |||
富山県 | ほとり座 | 076-422-0821 | 近日公開 |
備考: | |||
石川県 | シネモンド | 076-220-5007 | 7月2日(土)〜 |
備考: |
地域 | 劇場名 | 電話番号 | 公開日 |
大阪府 | 第七藝術劇場 | 06-6302-2073 | 5月21日(土)〜 |
★劇場イベント★ ・5/22(日) 12:15の回上映後、満若勇咲監督・大島新プロデューサーによる舞台挨拶 ・5/29(日) 14:45の回上映後、中島威さん(和太鼓奏者/「暮らしづくりネットワーク北芝」職員)・満若勇咲監督によるトーク |
|||
大阪府 | シネマート心斎橋 | 06-6282-0815 | 5月21日(土)〜 |
★劇場イベント★ ・5/22(日) 10:00の回上映後、満若勇咲監督・大島新プロデューサーによる舞台挨拶 |
|||
京都府 | 京都シネマ | 075-353-4723 | 5月21日(土)〜 |
★劇場イベント★ ・5/28(土) 11:10の回上映後、山内政夫さん(郷土史家/「柳原銀行記念資料館」事務局長)・満若勇咲監督によるトーク |
|||
京都府 | 京都みなみ会館 | 075-661-3993 | 5月21日(土)〜 |
★劇場イベント★ ・5/28(土) 12:45の回上映後、山内政夫さん(郷土史家/「柳原銀行記念資料館」事務局長)・満若勇咲監督によるトーク |
|||
兵庫県 | 元町映画館 | 078-366-2636 | 近日公開 |
備考: |
地域 | 劇場名 | 電話番号 | 公開日 |
広島県 | 横川シネマ | 082-231-1001 | 7月1日(金)〜 |
備考: | |||
愛媛県 | シネマルナティック | 089-933-9240 | 近日公開 |
備考:*火曜休館 |
地域 | 劇場名 | 電話番号 | 公開日 |
福岡県 | KBCシネマ | 092-751-4268 | 6月10日(金)〜 |
★劇場イベント★ ・6/11(土) 時間調整中 満若勇咲監督による舞台挨拶 |
|||
大分県 | シネマ5 | 097-536-4512 | 6月4日(土)〜6月10日(金) |
備考: | |||
宮崎県 | 宮崎キネマ館 | 0985-28-1162 | 7月29日(金)〜8月11日(木) |
備考: | |||
鹿児島県 | ガーデンズシネマ | 099-222-8746 | 7月2日(土)~7月8日(金) |
備考:*火曜休館 | |||
沖縄県 | 桜坂劇場 | 098-860-9555 | 6月25日(土)〜 |
備考: |
コメント
COMMENTS
多くの人がややこしいと思って、遠ざけてきた問題を文字通り直視した作品。人々の語りから解きほぐすことで、公式にはないはずのものを、そして目に視えないものを確かに「そこ」に存在させた。
差別を「描く」とき、差別言動の場面だけが切り取られれば、差別の拡散になる。そうならないためにはじっくり丁寧に描く必要がある。だからこそこの作品は長い。そしてそれは、映画館で観る映画という手法だからこそできることでもある。
差別を「観る」ことは、それを追体験することでもある。観終えた後は頭も身体も大変に疲れ、モヤモヤが残る。そこに部落差別の現実がある。
被差別部落は、なぜ残ったのか。中世から現代に至るまでの共同体の歴史をたどりつつ、さまざまな立場の人びとが、自分と部落を語った傑作ドキュメンタリー。
たがいに分かり合えない、それでも分かりたい、という想いの結晶が、きっとこの映画なのだ。
差別、運動、生活の話を、泣いて、怒って、微笑んで、ときには大笑いして語る姿をみて、人間の深さ、複雑さをうかがい知ることができます。
この映画を通じて、部落問題をめぐる当事者たちに出会ってほしいと思います。そして、新しい考え方を得たり、ほんのわずかでも行動を変るきっかけになったりしてほしいです。それは、私が調査を通じて経験したことと、似ていると思います。
部落について、たくさんの“私”たちがスクリーンのこちらに語りかけてくる。差別されてきた私、差別してきた私、映画を作る私。映画を見ながら、はたと思う。俺自身は果たしてどうなんだ? 自分の腹の奥底にあって見ようとしなかったものを鷲掴みにして叫びたくなる。これは世の中のあらゆる差別や、偏見から来る不寛容さを見事に実在させた凄まじいドキュメンタリーだ。
私が住む東京・練馬区にもかつて被差別部落があった。漫画家の白土三平はその体験から『カムイ伝』を誕生させた。私のテーマである暴力団も、被差別部落や貧困と密接な関係にある。なのに原稿で被差別部落問題に触れるのを躊躇してしまう。抗議も糾弾もされていないのに。私の中に部落差別が存在しているから恐れるのではないか。私は本当に差別をしていないのか。何度も考えさせられた。
いま、それぞれの立場に置かれた人間たちの「部落」をめぐる朴訥な語りと、過去の資料を読み直そうとする眼差しに支えられたひとつの映画によって、学びの機会がやわらかく開かれている。
わからないからと避けてきたその扉を開くと、そこには、「私」に向けられた問いが待っている。
ともに、学び始めませんか。すこしでもマシな未来のために。
複雑だと思われがちな部落問題の歴史を追っていくと、その道のりがまさに現在の自分の目の前に通じていることに気づく。眩しいほど青い空の真下で。
具体性がないまま膨らみ、実態を確認せずに強い拒否反応だけが生まれる。
それは、今、この社会のあちこちで起きていることではないか。
歴史を知ると、強烈な問いが現在の自分に向けられる。
部落問題は話題にしづらい。しかし、この映画に出て来る人たちは、みんなよく話す。明確な答えがあるわけではない。だからこそ、観る者は「はなし」に加わり、差別を乗り越える共同作業に誘引される。新しい地平を開く傑作だ。
「私のはなし」をする人たち。当たり前だけどみんな1人の人であり、それぞれの話がある。それを見つめて聴き、私なりに感じる。ただそれだけ。そして「ただそれだけ」がむずかしい社会にわたしたちはいる。
でも聴くことは効くこととも言われる。自分のなかの何かが変わるかもしれない。
「寝た子を起こすな」という言葉。何も教えなければその事実を知ることはないのだから黙っておけという「解決策」のことだ。
しかしそうはならなかった。現在もあらゆる差別や偏見、ヘイトは何も知らないからこそ起きている。だからこの映画は「時事映画」でもある。
この映画は「部落差別はこんなに悲惨だ」とか「差別はやめよう」と訴える作品ではない。差別される人、差別する人、自分は第三者だと思っている人に、ひたすら思うところを語ってもらうだけだ。だから、あらゆる立場の観客を拒まない。でも、見た後には、どんな告発のドキュメンタリーよりも、「部落差別ってマジしんどすぎる」と肌で実感するのではないか、と私は思う。
被差別部落について当事者である「私」たちと、差別する側の「私」たちの証言。歴史と現状、基礎知識、重要な事件や問題点をがっちり詰め込んだ3時間半。次世代の「私」たちが歌うブルーハーツ「青空」が未来を見上げる。
屠場をめぐる映画が上映中止になった満若勇咲監督が作り上げた必見の映画だ。
タブーを撃つ、大胆な切り込み。いたずらに問題を再燃させないための細やかな配慮。優しさ。TED以上の情報提示力。構成の妙。画面に息づく、取材に応じてくれた方々へのまっすぐな尊敬と愛情。驚くべき総合力の傑作だ。
観客の理性、感情、判断力、すべてに訴えかけ、複雑に絡まりあった問題の核心に連れていってくれる。自分が何も知らなかったことがしみじみ分かった。
地域づくりのワークショップをしていると、たまに「部落のはなし」が出る。しかし、根掘り葉掘り聞き出していい雰囲気ではない。だから、気になるけど理解が進まない。
この映画はそれを「私のはなし」として聞き出してくれた。おかげで理解は進むが、同時に新たな問題意識も生まれる。